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HP MP AT DF AG A_INT H_INT 2.3 4.5 1 1.2 3.5 5 1 補足 強力な呪文で敵を滅ぼす魔法砲台。 MPや属性をチェック、敵の行動を読む必要がある。状況に応じて技を使いこなそう。 紙耐久。パーティの補助は欠かせない。 Lv MP 技名 種類 属性 効果 2 10 メラ 魔 炎 敵一体にダメージ(小)。 8 18 ヒャド 魔 氷 敵一体にダメージ(小)。 15 5 マホキテ 魔 - 自分の一時状態を「魔吸収」にする。 28 28 イオ 魔 光 敵全体にダメージ(小)。 45 45 ヘナトス 魔 - 敵一体の攻撃力を25%下げる。 58 25 マホトム 魔 - 敵一体を「魔封」にする。 72 30 ラリホー 魔 - 敵一体を「眠り」にする。 100 70 メラミ 魔 炎 敵一体にダメージ(中)。 125 88 ヒャダルコ 魔 氷 敵全体にダメージ(中)。 150 95 イオラ 魔 光 敵全体にダメージ(中)。 198 128 メテオ 魔 土 敵ランダムにダメージ(小)×4。 225 52 マホトーン 魔 - 敵全体を「魔封」にする。 240 68 ラリホーマ 魔 - 敵全体を「眠り」にする。 350 70 ダウンオール 魔 - 敵全体の攻撃力を20%下げる。 500 225 メラゾーマ 魔 炎 敵一体にダメージ(大)。 450 256 マヒャド 魔 氷 敵全体にダメージ(大)。 528 280 イオナズン 魔 光 敵全体にダメージ(大)。 675 265 メラストーム 魔 炎 敵全体にダメージ(中)×3。 1350 380 カイザーフェニックス 魔 炎 敵一体にダメージ(大)。 1470 425 メイルシュトローム 魔 水 敵全体にダメージ(大)。 2350 650 メラガイアー 魔 炎 敵一体にダメージ(極大)。 2470 782 マヒャデドス 魔 氷 敵全体にダメージ(極大)。 SP MP 技名 種類 属性 効果 50 0 マホコイ 魔 - 自分のMPを回復させる。 100 15 ヒトボシ 魔 - 自分の攻撃魔力を35%上げる。 150 20 マジックバリア 魔 - 味方全体を「魔軽減」にする。 240 0 魔力の息吹 無 - 6~8ターン、自動でMPが回復する。 300 100 ヒトベラー 魔 - 味方全体の攻撃魔力を20%上げる。 480 100 コンセントレイト 無 - 4~5ターン、攻撃呪文の威力を上げる。 650 270 魔力の閃光 - 1000 500 魔力覚醒 - 名前 コメント
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前ページ次ページルイズと夜闇の魔法使い 明けてユルの曜日、柊はルイズと共に学院の教室にいた。 言うまでもなく、魔法学院の授業を受けるためである。 召喚された翌日の授業以来顔を見せていない柊の姿を認めて生徒達は少しだけ興味深そうな顔をし、すぐに興味を失って席に着く。 立場上柊はルイズの使い魔……もとい、ゲボクであるため、講義の際にそれらを伴う事は別段珍しくないからだ。 ちなみにエリスは例によって給仕の仕事を手伝っているため、ここにはいない。 そして本来なら、柊もここに来るつもりはなかったのである。 彼はいかにも面倒くさそうな顔をして後ろの卓に背を預け、ぼんやりと正面の黒板を見つめていた。 隣に座っているルイズが言葉もなく読み終わった本を柊に差し出すと、彼は嘆息してそれを受け取って月衣(かぐや)の中に放り込む。 次いで別の本を取り出して彼女に手渡すと、再びうんざりした調子で溜息をついた。 「俺の月衣を本棚代わりにすんなよ……」 先日タルブ村から帰還したルイズは、フール=ムールから話を聞いて手がかりを得たのだろう、真っ先に図書室へと足を運んだ。 そして次から次へと本を取り出し、貪るようにそれを読み始めたのだ。 ちょっと覗き込んでみると、それは始祖ブリミルと伝説の系統と呼ばれる虚無に関する本だった。 フール=ムールから自身の魔法に関して話を聞いた後に調べ始めた……となれば柊ならずとも彼女の行動の意図を推測するのは容易だろう。 「もしかして虚無ってのがお前の系統なのか?」 と尋ねれば、 「わかんない」 と要領を得ない答えが返ってきた。 まあそういう風に話に聞いてもそれを実感できるかどうかは別物という事なのだろう。 だからこそ彼女はこうしてブリミルや虚無の事を調べているのだろうし。 柊としてはルイズがその伝説の虚無を使うメイジであったとしても別に驚きもしないし呆れもしない。 何故ならファー・ジ・アースではそういった類のモノは珍しくはあっても有り得ないという程ではないからだ。 例えば神や英雄の生まれ変わりである『転生者』や神に類する上位存在に仕える『使徒』。 更には(厳密には少し違うが)神そのものである『大いなる者』といったウィザードも少なからず存在している。 だから、伝説の虚無とやらが実在していたとしても柊達にとってはさほど驚愕するような事態ではないのだ。 ともかくそんな訳でルイズはそれらを調べ始めた訳だが、対象がこの世界で神と同等に信仰されている存在なだけあって資料は膨大だった。 ある程度信憑性のありそうなものからなさそうなもの、異説や逸話や御伽話なども含めれば枚挙に暇がない。 その日だけで総てを調べつくすなどできようはずもなく、ルイズは自室にそれらを持ち込んでまで本を読みふけり、それは翌日の今現在でも変わりはなかった。 そしてそんな彼女の行動にうってつけだったのが柊の月衣なのである。 何しろ月衣に収納していれば大量の本の持ち運びが極めて容易な上に場所も一切取らない。 お陰様で柊はルイズの本棚として常に傍に侍る栄誉を賜りこうして受ける意味もない講義にまで付き合わされる羽目になったのである。 無論、今でも月衣の中には数十冊の本が収納されている。重量がなくなる訳ではないので肩が凝ることこの上ない。 講義をまともに受ける気はなくともサボるつもりはない、というのが優等生の矜持というものなのだろうか。 柊は新しい本を読み始めたルイズを横目で見やった後、三度溜息をついた。 そんなこんなで柊が辟易しきっていると、入り口から教師が入ってくるのが見えた。 その姿を認めて柊は小さく眉を顰めて心中で呻く。 黒い長髪に黒いローブ、対照的に青白い肌の教師――ギトーだった。 柊の視線に気付いたのかあるいは偶然か、眼がばっちり合ってしまったが、ギトーは僅かに眉を寄せただけですぐに眼を切り教壇へと向かった。 初めてのギーシュの決闘の際に柊と因縁ができたギトーだったが、彼の柊への対応は極めて大人だった。 要するに、何もしなかったのだ。 学院内で鉢合うような事があっても完全に無視。 生徒達からあの時の事を尋ねられても黙殺し、揶揄や陰口に対しても委細相手にしなかった。 当事者を除いて事情を知るのはタバサとキュルケであったが、タバサも全く語ろうとはせずキュルケも話の種にするほどギトーに興味はなかったのですぐに忘れてしまっていた。 徹底して沈黙していたことが功を奏したのだろう、ギトーと柊の因縁はあっという間に風化して生徒達の話題に上ることはなくなっていた。 ともあれ、ギトーの授業は何事もなく始まった。 系統魔法に関する優劣を些か偏った主観から滔々と語り続け、最強の系統とは何か、という話題に流れていった。 そんな講義をぼんやりと聴きながら、柊はふと思い立って机の下で月衣からデルフリンガーを取り出した。 『んあ? どうした?』 「いや、ちょっと暇だったんでな。……最強の系統って何だ?」 『最強? 虚無だろ?』 「おとぎ話じゃなくて現実的な話らしいぞ」 『だから……虚無だろ?』 「……悪かったよ、伝説の魔剣」 嘆息交じりに返した後、柊は最強らしい推定虚無のルイズをちらりと見た。 彼女は我関せずといった感じで手にした始祖ブリミルの伝説を黙々と読みふけっている。 「四大系統で最強なのはどれだって話だってよ」 『そんなの決まってんじゃねえか』 デルフリンガーはいっそ眠たそうな声で返した。 別段示し合わせた訳でもないだろうが、デルフリンガーと同時にギトーに尋ねられたキュルケが答えた。 「火ですわ」『火だよ』 壇上ではギトーがキュルケ達に向かって風系統の優秀さを滔々と語っている。 一方で机の下のデルフリンガーも柊に向かって語りかけていた。 『確かに風は優秀だな。色々と使い勝手もいいし、他の系統との相性も良い。一番“優秀”な系統っつったら風だろうさ。けど“最強”を冠するのなら『火』以外にはありえねえよ』 「……へえ」 ぼんやりと応える柊の目の前ではちょっとした修羅場が展開されていた。 安い挑発に乗った格好でキュルケが火系統の魔法をギトーに向けて撃ち出し、それをギトーが風で弾き返して逆にキュルケを打ち負かしたのだ。 火が風に敗北するのを目の当たりにしていると、デルフリンガーが小さく笑った。 『こんな“オベンキョウ”の場所で覚える魔法も使う魔法も火遊びみてえなモンさ。あの赤髪の姉ちゃんも見た感じ火遊びの達人って感じだしな。 この前やりあった土メイジみたいな実戦を潜り抜けてる奴は桁が違うぜ。火系統のメイジならトライアングルでも他の系統のスクエアに匹敵するね』 「そんなもんか……」 暇つぶしに聞いてみただけなのでさほど感心した様子もなく柊は小さく呟く。 いささか大人気なく生徒をやり込めたギトーは心持得意げな様子で風の優秀さを大いに語り、更に最強たる所以を見せると詠唱を始めた。 それを聞いたデルフリンガーが『おっ』と小さく声を上げたので興味に駆られて尋ねようとすると、それら一切を遮るようにして教室の扉が開かれた。 現れたのは異常に仰々しいカツラを被り、着るというよりは着られているといった表現が相応しいほどに飾り立てた服を纏ったコルベールだった。 彼が今日の講義が総て中止になった事を伝えると、生徒達が一斉に沸きあがる。 その歓声に応えるようにコルベールが胸を反らせた瞬間、カツラが取れて床に落ちた。 柊とタバサが同時に呟いた。 「「滑りやすい」」 教室の中が一瞬にして笑いに包まれた。 ※ ※ ※ 夜が深まる頃合になって、ようやく学院の喧騒が収まりつつある。 その喧騒の正体は今日の講義が中止になった原因――トリステインの王女であるアンリエッタの魔法学院に行幸した事だ。 始祖ブリミルの降臨祭とやらと並ぶ慶事であるらしいその行幸に生徒達は大いに沸きあがり、急な訪問にも関わらず歓迎式典は盛大に執り行われた。 立場上柊は式典に参加できようはずもないので蚊帳の外からちらりと様子を眺めるだけだったが、生徒達の波間から僅かに覗いた王女殿下の顔は確かにタルブ村で見たあの少女だった。 あれやこれやの式典からアルヴィーズの食堂での会食を経て落ち着きを取り戻し始めたのがもう日付が変わろうかという時間。 エリスがルイズの部屋に戻ってきたのはそんな時だった。 「……お疲れさん」 開かれたドアの音で柊は本から顔を上げ、エリスを見やってねぎらうように声をかけた。 見習い程度の給仕であったが散々に動き回ったのだろう、疲労の色を顔に浮かべているエリスはしかしどこか照れたように微苦笑を浮かべて見せる。 エリスは立場上ルイズのお世話が優先されるためこうして抜けられたのだが、シエスタ等のような学院に雇われている正式な給仕たちは今でも後片付けに追われているのだ。 「柊先輩もお疲れ様です。……お勉強ですか?」 少し悪戯っぽく微笑してエリスが言うと、柊は顔を顰めてから手にしていた本をテーブルに放り出す。 表題は『始祖ブリミルの偉大なる足跡』。 ブリミルが行なったと言われる偉業を記した本で、端的に言うと御伽噺の説話集である。 こうしてルイズの部屋にまで本棚として拘束されているので暇に飽かせて読んでみただけだ。 柊は本日十何回目の溜息を吐き出すと、エリスの帰宅を意にも介さぬ様子で読書に没入しているルイズに眼をやった。 ルイズはアンリエッタ王女の行幸に際しても一度遠目から彼女の御姿を確認しただけで、以降はやはりこうして本を延々と読み耽っていたのだ(さすがに会食の時はそれはしなかっただろうが)。 その姿を見たキュルケなどは嘆息交じりに「タバサに弟子入りでもしたの?」と首を傾げていたほどだ。 見ればルイズは速読術の心得でもあるのかといわんばかりに次々と項をめくり続けている。 見かねて柊が声をかけた。 「……んで、そんだけ読みまくって何か収穫はあったのかよ」 するとルイズは項をめくる手をぴたりと止め、眉を潜めて嘆息し首を左右に振った。 始祖ブリミルに関することだけあってその類の書物はとにかく膨大だったが、実になるようなものはほとんどといっていいほど存在しないのだ。 曰く、始祖ブリミルは虚無の力で以って小さな太陽を創り上げた。 曰く、始祖ブリミルは虚無の力で以ってアルビオンを空に浮かせた。 曰く、始祖ブリミルは虚無の力で以って生命をも操った。 要するに、始祖ブリミルは神の如き者であり虚無は奇跡の御業だということらしい。 具体的にそれがどんなものなのか、どうすれば使えるのか、系統魔法のように詠唱やスペルがあるのか、そういった類のことは何一つ記されてはいない。 「……まあ、図書室にあるような本でそんなのがわかるなら奇跡だの伝説だの言われる訳ないんだけど」 結局のところ具体的なモノに関してはフール=ムールが語っていた『始祖のルビーを手に始祖の秘宝に接触する』という情報だけだ。 あとは有象無象の眉唾物の言い伝えだけ。 やはりロマリアなどの蔵書ぐらいでなければ実のある情報は入りそうにない。 「虚無なあ……そうだ」 柊は朝の授業のことを思い出してデルフリンガーを月衣から取り出した。 『今日はやけに出番が多いな。いきなり出番が増えるのは死亡フラグって昔の人が言ってたが、大丈夫か?』 「なにが死亡フラグだ、俺に寄生して妙な言葉ばっか覚えるんじゃねえ。それよりお前、授業の時に虚無が最強って言ってたよな。虚無のこと何か知ってんのか?」 柊の言葉にルイズが眼を見開き、僅かに身を乗り出した。 「なにか知ってるの?」 『凄かったのは覚えちゃいるが、具体的にどうってのは覚えてねえし、知らねえよ。俺が使ってたって訳でもねえしさ』 どこか面倒くさそうに語ったデリフリンガーにルイズはこれ見よがしに溜息をついてみせると、テーブルに頬杖をついて再び尋ねた。 「じゃあ、エリスの事知ってる? エリスっていうか、胸にルーンのある使い魔」 「えっ」 急に話題を振られてエリスは瞬いてルイズを見やった。 その視線を受けてルイズはテーブルに置いた本をパラパラとめくりながら語る。 虚無を使う始祖ブリミルを守るために選んだという使い魔。 現代に連なる使い魔達の原点とも言うべき存在だ。 ルイズが伝説の虚無の担い手だというなら、その使い魔であるエリスはやはり伝説の使い魔ということになるのだろう。 実際彼女に刻まれているルーンは普通の使い魔とは違うものだったので、一緒に調べてみたのだ。 その結果は、虚無と同様よくわからなかった。 記されていないのでわからなかった――のではなく、『多すぎて』わからなかった。 ブリミルが用いたという使い魔の数は書物によってまちまちだった。 一体だけだった時もあれば二体の時もある。四体や七体の時もあるし、酷いものでは七十七体なんてものもあった。 そんな使い魔達の中でもっとも登場する頻度が高いのが『神の左手』と呼ばれるガンダールヴ。 次いで多いのが『神の頭脳』ミョズニトニルンと『神の右手』ヴィンダールヴ。 登場する書物の多さからこの三つはかなり信憑性が高いことが窺えた。 だが残りのものは名前もルーンの場所も千差万別で枚挙に暇がないほどに存在する。 胸にルーンが刻まれるものも少なからず存在しており、アルスィオーヴ、スヴィーウル、ラーズスヴィズ、フレーヴァング等々伝承に任せて著者や編者が好き勝手に語り継いでいるのだ。 最初の三つに関してはルーンの図柄も記されているのに対し、これらは図柄もほとんどなく更に書物によっては一致しないので正直あてにはできそうもなかった。 そしてエリスに刻まれたルーンは、造形こそ似ているもののあらゆる書物にも合致しなかった。 「……で、どう? 知ってる?」 『……』 ルイズの言葉にエリスも一緒にデルフリンガーを覗き込んでみるが、当のデルフリンガーは何故か言葉を失ったように沈黙している。 普段はわからないだの知らないだの覚えてないだの言う彼(?)にしては珍しいその反応に柊も訝しげに首を傾げた。 「おい、デルフ」 問いかけようと口を開きかけると、デルフリンガーが心なし低い声でぼそりと呟いた。 『……リーヴスラシル』 「リーヴスラシル?」 『ああ。胸にルーンのある使い魔はリーヴスラシルだ。男だったらリーヴってんだけど』 「『リーヴスラシル』……そんなのあったかしら」 首を捻ってルイズはテーブルの本を再びパラパラと眺め始めた。 その脇でエリスが勢い込むようにデルフリンガーに詰め寄る。 「あの、デルフさん。そのリーヴスラシルっていうの、どういうものなんですか?」 するとデルフリンガーがまるでエリスを観察するかのように沈黙した後、どこか申し訳なさそうに言った。 『……。俺も名前だけしか覚えてねえ。ガンダールヴならちっとは知ってるけどな……使われてた事もあるし』 「まじかよ……お前、本当に伝説の魔剣なのか?」 『まあね。そういやそんな事もあったな、ってぐれえだけど』 「……?」 デルフリンガーの返答に柊は小さく首を傾げてしまった。 いつものデルフリンガーならここぞとばかりに妄言を吐き散らかすかと思ったのだが、何故か今は軽く受け応えただけで特に何も語らない。 ……いや、それはそれで柊としてはイチイチ突っ込む必要がないので望むところではあるのだが。 「まあいいや。とりあえず、他に何か思い出したことあるか?」 『いや、これくらいだ。何しろ六千年生きてっからなあ、どうでもいい事はワリと思い出すんだが具体的なことになるとどうにも』 ふぅん、と息を吐いて柊はルイズを見やる。 再び本を読み始めた彼女が軽く手を振ったので柊はデルフリンガーを月衣に収納し、軽く首を回した。 「そんじゃ、俺はそろそろ帰るぞ。エリスも着替えたいだろうし」 「いいわよ。明日朝一で図書室に行くから、ちゃんと来なさいよ」 「お前な……」 あまりにもぞんざいな扱いに柊が唸るように漏らすと、エリスがくすくすと笑いを零した。 いたたまれなくなって柊は席を立つと、ドアに向かって足早に歩き出す。 「あ、おやすみなさい」 「おう、おやすみ」 手をひらひらと振って応えながら柊が扉を開けた。 瞬間、ゴッ、と鈍い音と衝撃がして、更に 「あ゛う゛っ!?」 とくぐもった悲鳴が扉の向こうから響いた。 「!?」 柊は慌てて半開きで止まった扉の隙間から首を出し廊下を覗く。 そこには全身をすっぽりとローブで包んだ人物が倒れていた。 「わ、悪ぃ! 大丈夫か!?」 「~~っ、~~~っっ」 よほど強く鼻っ柱を打ち付けてしまったのだろう、その人物は手で顔を覆って悶絶している。 手から覗く顔を見ると、どうやらそれはルイズと同年代の少女のようだった。 「柊先輩、どうしたんですか?」 「いや、外に人がいたみたいでよ……」 部屋の中から届くエリスの声に答えながら、柊は廊下に出て屈みこみ様子を見る。 どうやら起き上がる事もできないようで、柊は小さく息を吐いた後彼女を抱き上げた。 はうっ、と戸惑った声を漏らした少女を委細構わずに柊はルイズの部屋に戻ると、疑問符を頭に浮かべているエリスの視線を受けながらベッドへと移した。 彼女を運びながら柊の中で小さな疑念がわく。 先程少し覗いた少女の顔や、ローブから覗く栗色の髪。 その下に纏っているのは純白の衣装。ちらりと見ただけでもかなり高価そうなものだとわかる。 ……どこかで見たような気がする。それも一度ではないような。 「……もう、何よ一体。誰なの?」 面倒くさそうに言いながらルイズが本を閉じて席から立ち上がった。 寮の廊下は十分な幅があるので普通に歩いていてドアにぶつかるなどという事は起こらない。 それが起こったという事は、相手は部屋のドアの前にいた――つまり、部屋の主であるルイズに何らかの用がある人間という事だ。 形ばかりとはいえ就寝時間を過ぎ日付も変わろうかというこの時間に尋ねてくる客などろくなものではない。 ルイズは不審そうにその少女を覗き込み――ひっと小さく悲鳴を上げて固まった。 どこかで見た彼女の仕草に柊は眉をひそめ、そしてそれを思い出して目を見開きベッドの少女を見やる。 唯一事情を知らないエリスが不思議そうに首を傾げ、はっとして眼を丸くした。 少女はフードを払って顔を露にすると、目尻の涙を拭ってルイズ達に向かい合う。 「お久しぶり……というほどでもないかもしれないわね、ルイズ・フランソワーズ」 つい先日タルブ村で出会い、そして今日の昼間に垣間見たあの少女――アンリエッタは凝固した三人にそう言って笑った。 ぶつけた鼻頭がほんの少し赤いのが惜しかったが、それでも彼女の微笑みは国の至宝と謳われるに相応しいものだった。 ※ ※ ※ 「……申し訳ありません」 ベッドに座するアンリエッタの御前で、ルイズは平伏したまま切り出した。 その隣には同様に柊がルイズに頭を押さえつけられて平伏している。 自らも額を床に擦りつけながら、彼女はアンエッタに向かって更に言葉を紡いだ。 「ゲボクの不始末は主たるわたくしの責任。罰はいかようにも……」 「構いません。約束も取り付けず、しかもこのような時間に尋ねる非礼を働いたのはこちらなのですからむしろ謝るのはこちらです」 言ってアンリエッタはルイズの元に歩み寄り、膝を折って彼女の身を起こして顔を上げさせる。 「それより、そんな他人行儀な態度はやめてちょうだい。ここは王宮ではないのだから」 「そういう訳にはまいりません。姫殿下ともあろう方がこのような下賎な場所においでになるなど――」 「やめて! ただでさえ枢機卿や欲の皮の張った宮廷貴族達に心無いおべっかを使われているというのに、昔馴染みの貴女にまでそんな事をされたらわたくし悲しくて死んでしまいますわ! わたくしと貴女はおともだちでしょう!?」 感極まった様子で抱きついてくるアンリエッタに、ルイズは困ったような表情でされるがままになってしまった。 頭を押さえつけられた腕が外れて自由を取り戻した柊は、半ば呆れたように二人の様子を見ながら引き下がり部屋の端にいたエリスの元へと逃げ出した。 「あ、あの……ルイズさん、王女様とお知り合いなんですか?」 「そうらしいな。タルブ村であった時もなんか知ってる風だったし……」 「タルブ村?」 「あー、ちょっとあってな」 タルブ村での一件はフール=ムールが居た事やファー・ジ・アースの現状に関しては話したが、アンリエッタ王女を呼び出したという話まではしていない。 エリスに軽く説明をしている間にもアンリエッタは大仰な身振り手振りを加えてルイズと旧交を温めている。 そんな彼女の様子にいくらかほだされたのか、ルイズも最初の時のようなかしこまった表情は薄れ始めていた。 そして雰囲気が落ち着くとアンリエッタは次いで脇に控えていた柊とエリスに眼を向ける。 アンリエッタの視線に気付いたルイズが説明しようと口を開くより早く、アンリエッタは小首を傾げて言葉を紡いだ。 「……貴方がヒイラギ殿ですね? ルイズに召喚されたという」 「え?」 問われた柊は驚いて肩を揺らした。 それはエリスやルイズも同様だったようで、特にルイズは驚愕と言っていいほどの表情を浮かべている。 「なんで俺の事を……」 タルブ村では状況が状況だけにほぼ認識されていないに等しかったし、勿論名乗ってもいない。 言うまでもなく今日の式典には顔を出してすらいなかった。 「フール=ムール様に伺いましたわ。たしか、あの時ルイズと一緒にいましたわよね?」 「……あいつか」 柊は苦々しげに呻いた。 そういえばあの時アンリエッタはフール=ムールに相談があると言っていて、後ほど話を聞くと言っていた。 その時に話を聞いたのだろう。 アンリエッタは何故か嬉しそうに胸の前で手を組み、柊に語りかける。 「何でもフール=ムール様の故国にて名を馳せた英雄だとか! 星降る災厄を退け、異国の奈落に潜む者を討ち倒し……ルイズに召喚された際には青き衣を纏いて金色の野に降り立ち、臀部からは七つの尾が生えていたと! 尻尾はどうしたのです? 今は隠しておられるのですか?」 「全っ然違ぇ!? 尻尾とかねえよ! っていうか尾ひれがつきまくってんじゃねえか!!」 「こらぁあ!!」 「ごふっ!?」 反射的に突っ込んでしまった柊のどてっぱらにルイズの正拳が叩き込まれた。 彼女は身を折って崩れ落ちた柊を更に蹴りつける。 「ゲボクの、分際で、姫様に、なんて、口を、聞くのよ!!」 「ルイズさん落ち着いて下さいっ!?」 息を荒らげるルイズにエリスが慌てて縋りつく。 見かねたアンリエッタも宥めるように言った。 「そうですわ。いくら恋人とはいえ、そのような無体をするものではありません」 「こイっ!?」 「びとっ!?」 アンリエッタとしては何気なく言ったつもりなのだろうが、ルイズとエリスは同時に裏返った声を上げて固まってしまった。 愕然と凝視してくる二人に、アンリエッタは不思議そうに首を傾げた。 「あら、違うの? こんな時間まで貴女の部屋にいる殿方なのだから、てっきりそうなのだとばかり……」 「ち、ちが」 「そんなんじゃないです。柊先輩はルイズさんのゲボクです。それだけです」 「……」 間髪いれずにエリスが答え、遮られた格好になるルイズは頬を引きつらせた。 勿論エリスの言うとおり柊は彼女のゲボクであり、それ以上でもそれ以下でもない。 が、自分でそう言うならまだしも他人に、しかもそこまで断言されてしまうと何故かムカつく。 何故かよくわからないが、とにかくむかつくのだ。 「……?」 と、アンリエッタが小さく首を傾げてそのエリスを見やった。 観察するようにまじまじと見やった後、ルイズに向き直って口を開く。 「ルイズ、こちらは? 貴女、専用のメイドを付けているの?」 「え、あ……この子、エリスはわたしの使い魔です」 今になってようやく存在に気付いたといったアンリエッタにルイズは言い、エリスがはたと気付いて恭しく頭を垂れた。 まあエリスは給仕のお仕着せを纏っていたので、王女であるアンリエッタが気付かなくとも無理はない。 するとアンリエッタは不思議そうに更に頭を捻った。 「貴女が召喚したのはヒイラギ殿ではなかったのですか?」 「ヒイラギもですが、エリスもわたしが召喚しました」 「……それは召喚の儀を二回行なった、という事なの?」 「……いえ、一回です。二人が一緒に召喚されてしまったのです。それで、エリスを使い魔として契約をしました」 「人間を召喚した上二人もだなんて……あなたってどこか変わっていたけど、相変わらずなのね」 呆れた、というよりはいっそ感嘆したといった風に漏らすアンリエッタに、ルイズは何となくいたたまれなくなって俯いてしまった。 と、そこでふとあることに気付いた。 (……あれ? エリスの事は聞いてないの?) 態度を見る限り、柊の事はフール=ムールから聞いているようだったが、エリスの事は一切聞いていないようだ。 確かにタルブ村にはエリスを連れて行っていないが、エリスが召喚され共にいることはフール=ムールも知っていたはず。 何故柊の事だけが話題に出たという事なのだろうか。 タルブ村で顔を合わせたことがあるにはあるが、行きずりに等しいあの状況で単なる平民である柊を気に留めるなんてありえない――実際今の今までエリスに気を留めなかった――のに。 「……あのー」 そんな事を考え込んでいると、柊がよろよろと立ち上がりながら声を上げた。 少女達の視線が集まると柊はどことなく居心地が悪そうに頭をかくと、アンリエッタを見やって言葉を続ける。 「それで、姫さ……あー、えー……姫殿下? はなんでこんな時間にここに来たんですか?」 日常生活における上下関係レベルならともかく、貴族階級だのの社交礼儀など全く知らない柊がしどろもどろになって言うと、ルイズの眼が一気に釣り上がった。 とはいえ、柊の言う事も確かに気になる所ではある。 アンリエッタとの関係は隠していたわけではないし隠すような事でもない。 忘れられているとは思っていたが、彼女が覚えていたというのなら使者でも立てて呼び出してくれればすぐにでも顔を出しただろう。 にも関わらずわざわざこんな所に御身自らが足を運ぶなど尋常の事ではない。 するとアンリエッタは途端に表情を曇らせ視線を彷徨わせ始めた。 首を傾げる三人を前に彼女は悩む表情を見せた後、ゆっくりと話し始めた。 「……ルイズ・フランソワーズ。貴女に個人的に頼みたいことがあるのです」 「わたしに……ですか?」 「ええ。といっても貴女に何かをして欲しい、という訳ではなくて、」 言ってアンリエッタは柊に視線を移し、青色の瞳で彼を真っ直ぐに見据える。 「ヒイラギ殿をお貸し頂きたいのです」 「ヒイ……はい?」「……は?」「……え?」 三者三様、しかし異句同音に疑問の声が上がった。 ※ ※ ※ 「これから話すことは誰にも口外してはなりません」 ディテクトマジックで魔法による聞き耳がない事を確認した後、アンリエッタは静かに切り出した。 「わたくしは今重大な問題を抱えています。国家の行く末に関わる問題であると同時にわたくし個人にも深く関わることゆえ、いたずらに相談することもできませんでした。そんな折に先日フール=ムール様にお会いすることができまして――」 「……あいつ、そんな凄い奴なのか?」 柊は眉を潜めてぽつりと呟いた。 凄い存在だというのは知っている(何しろ神様だ)が、王家の人間に相談されるほど深い縁があるとは思えなかったのだ。 するとアンリエッタは深く頷いて応えた。 「ルイズは知っていると思いますが、トリステインは代々水の精霊と盟約を交わしております。フール=ムール様は百年ほど前に水の精霊と盟約を交わし、かの精霊の盟主となられたとか。同じ盟約を交わす間柄として当時の王と詮議したのが縁の馴れ初めだそうです」 「やりたい放題だな……」 この世界の精霊とやらの頂点に座るなど“風雷神”の二つ名は伊達ではないらしい。 まあ当人には何かをしでかすつもりはないようなので危険というわけではないだろうが。 「ともかく、フール=ムール様とはそのような縁で懇意にしてもらっていましたので思い切って相談してみたのです。するとあの方は『柊 蓮司に頼めばよい』と」 「あの女……っ」 柊は思わず忌々しげに呻いてしまった。 要するにたらい回しにしたという事だろう。 柊の事もその時に聞いた、という訳だ。 「フール=ムール様の推挙を受けるほどの者が昔なじみであるルイズの世話になっている……話を伺ったとき、運命を感じましたわ。始祖ブリミルはトリステインとわたくしをお見捨てになってはいないのだと……!」 感極まっているのか、アンリエッタは大仰な仕草で天を仰ぎ祈るように両の手を組む。 やたらと芝居じみたその動作に柊は半分鼻白んでしまった。 ちらりと目線をやれば、エリスも少し困ったように視線をさ迷わせている。 どうやらそう感じたのは自分だけではないらしいことに柊は少し安心した。 一方でルイズは特にアンリエッタを訝しむでもなく、恭しく頭を下げて口を開いた。 「そのような事情でしたら、わざわざこのような場所にお越しにならずともお呼び下さればこちらから参りましたものを……」 するとアンリエッタは嬉しそうに頬を緩ませた後、しかし静かに頭を左右に振った。 「ヒイラギ殿は身分に囚われず人を見る、と。その信を得られれば万の災禍が降りかかろうと決して折れぬ刃になろう――あの方はそう言っておられました。であればやはり、トリステイン王女としてではなくアンリエッタ個人として貴女達を訪ねるのが筋というものでしょう」 「っく……」 やはり芝居じみたアンリエッタの台詞を聞いて柊は小さく歯を噛んだ。 持ち上げ方も大概なものだが、そのような言い方をされてしまっては頼みとやらを断る訳にはいかないではないか。 きたない、さすが魔王きたない。 アンゼロットのようなごり押しで任務を引き受けさせるやり方ではないが、搦め手で攻めてくる辺りが相当に悪辣だ。 一緒に聞いているエリスもさぞ微妙な表情をしているだろうと柊は再び彼女に目をやったが、何故か彼女は誇らしげな顔をしていた。 よくわからないが激しく居心地が悪かった。 「あー、まあ話はわかった。それで姫さんは」 「王女! 殿下!! よ!!」 「ごふっ!?」 誤魔化すために反射的に口をついて出てしまったため口にルイズが再び正拳を叩き込む。 それを見たアンリエッタは可笑しそうに頬を緩めると、 「構いませんよ。今は王女としてここにいるわけではないのですから」 「いえ、これは最低限の礼儀ですから。……あんたはちょっと黙ってなさい」 「へいへい……」 ルイズにねめつけられて柊は殴られた腹をさすりながら引き下がった。 隣で小さく苦笑を漏らしたエリスを見て小さく嘆息すると、柊は再びルイズを見やる。 彼女は満足そうに鼻を鳴らすと、アンリエッタに問いかける。 「それで、わたし共に頼みたいこととは一体何なのでしょう」 本題に入るとアンリエッタは表情を引き締め、しかし口を閉ざしてしまった。 言葉を選んでいるのだろうか、それとも話すことを逡巡しているのか、彼女は沈黙したまましばし瞑目していた。 ややあって、彼女はぽつりと漏らした。 「……実はわたくし、結婚することになりましたの」 「……」 その言葉にルイズ達は一様に驚きを露にする。 もっともそれは結婚するという事に驚いたというよりも、その言葉の内容とそれを語る彼女の表情がかけ離れていたためだ。 どこか諦観に近い彼女の微笑を見ればルイズやエリスは勿論、柊でも流石に気付く。 「それは……おめでとうございます」 自然ルイズの返した言葉も硬くなってしまった。 アンリエッタは僅かに顔を傾け、その顔に僅かに憂いを深めさせて言った。 「いいのよ。この身を自覚したときから覚悟はしていました。……好きな相手と結ばれるなど叶わぬことは」 「……、」 誰に言うでもなく呟くような声にルイズは何も返せなかった。 だが、その声色と表情でルイズの裡にはふとある疑念がわく。 ちらりと視線を向けてエリスと目が合うと、彼女もまた同様の疑念を持ったのだろう、同じような視線を送り返していた。 ちなみに柊は……言うまでもないようで単純に反応に窮した表情をしているだけだったが。 「それで、わたくしの嫁ぐ先はゲルマニアの皇帝なのですが……」 「ゲ、ゲルマニア!? なんで姫様があんな野蛮な成り上がりの国に!?」 そんな状態から不意打ちのようにアンリエッタから言葉を投げかけられ、ルイズは思わず上擦った悲鳴を上げてしまった。 アンリエッタはルイズを宥めるように手をかざすと、ゆっくりと顛末を話し始めた。 アルビオンの一部貴族が『レコン・キスタ』と名乗り反乱を起こしたこと。 この内乱に王家側――王党派は事実上敗北し明日にも倒れるだろうこと。 そして次に標的となるのはトリステインであり、一国ではこれに抗し得ないだろうこと。 それゆえトリステインは恥辱を呑んでゲルマニアとの同盟を打診し、その『見返り』としてアンリエッタをゲルマニアに嫁がせるということ。 「そんな……ガリアはどうしたのです? 偉大なる始祖の血を継ぐ三王家の一柱、いわば兄弟の危機でしょうに!」 「ガリアは傍観……というより、干渉する余裕がないのだそうです。アルビオンほど大規模ではありませんが各地で散発的な内乱が起こっているようで。彼の王は、その、……ですから」 「あっ……」 アンリエッタはその“兄弟”であるガリア王家のことだけに言葉を濁したが、ルイズもガリア王の噂は聞き及んでいた。 才に乏しく、御位に就いて後も国政をないがしろにして遊び呆ける『無能王』。 詳しくは知らないがアンリエッタの言の通りの情勢であればその噂も遠くはないといった所だろう。 「しかし、だからといってゲルマニアなどにおもねるなんて……」 「仕方がないことなのです。罪科を問うのならば一国でレコン・キスタと闘う力を保ち得なかったわたくし達の咎と言うべきでしょう」 「でしたらなおのこと危険ではありませんか! そのような状態であの野蛮な国の干渉を許せば……!」 「ええ、それもわかっております。おそらく――」 ※ ※ ※ ゲルマニアと同盟を結んだトリステイン。 しかし自国を守る力すら持ち得ないトリステインに、ゲルマニアの専横を止める手立てがあるはずもなかった。 由緒ある三王家の一柱であるこの国はレコン・キスタよりも先に礼節をわきまえぬ野蛮な帝国に蹂躙されるのであった。 「ヒャッハー、水だァー!!」 馬に乗ったモヒカンヘッドの貴族が雄叫びを上げて湖になだれ込む。 彼等はそのまま馬から飛び降りて湖に飛び込むと、頭から思う存分に水を浴びて歓喜の声を上げた。 「おうおう、さすがはトリステインの名勝と呼ばれるラグドリアン湖だぜぇ! 底が見えるほど透き通ってやがる!」 湖の静謐を暴虐のままに穢しつくすゲルマニア貴族達に続くように、至る所に角をつけた巨大な馬車が姿を現した。 ゆっくりと扉が開かれ、そこから姿を現したのは巨大な体躯の貴族。 目線を悟らせぬためか黒色の色眼鏡をかけたその貴族は剃り上げた頭を爛々と輝かせて湖を眺めやり、ゆっくりと手を上げた。 「我々のオアシスが見つかった! ただ今よりラグドリアンは優等人種にして超イカすゲルマニア大貴族であるこの私、オーリ・エステル・フォン・アルガロード・タナカッテン伯爵の領土とするゥゥ!!」 「女と食料を差し出せぇ~い!!!」 伯の宣言と同時に部下の貴族達が奇声を上げて動き出し、住民達を追い回す。 眼も覆わんばかりの惨劇の中、一人の老人が伯の前に駆けつけ額を地面にこすりつけた。 「お、お許しください! これ以上人と食料がなくなれば私達は生きていけません! どうかこれで……!」 「ぬぅ……!?」 老人が差し出した皮袋に伯は眼を見開きそれをもぎ取る。 開いてみればその中には溢れんばかりのエキュー金貨が詰まっていた。 「こ、これだけでなく村中からかき集めたものがまだあります。ですからどうか……」 老人の訴えを聞いているのかいないのか、伯はしばしその金貨を見つめ続け――それを叩きつけるように地面にぶちまけた。 「馬鹿かテメェッ!? トリステインがゲルマニアの属国になった今、エキュー金貨なんざケツを拭くコインにもなりゃしねえんだよぉ!!」 「はあっ……!!」 裏返った伯の怒声に老人の表情が絶望に染まった……。 ※ ※ ※ 「――と、このような地獄が繰り広げられるでしょう」 「な、なんてこと……しかし野蛮なゲルマニアの連中ならやりかねませんわ……わなわな」 「わなわなじゃねぇっ! 明らかに世界観が違うだろっ!?」 思わず叫んだ柊に、しかしルイズとアンリエッタの二人はそれを無視して互いに手を取り合う。 「姫様、ゲルマニアとの同盟などおやめください!」 「いいえ、それはできないのです。賊徒共に滅ぼされるぐらいならば、形だけでもこの国を残しておかなければ……たとえわたくしの身を捧げても」 「姫様……!」 「所詮わたくしは籠の鳥のようなもの。今度はゲルマニアという檻に入れられ望みもしない詩を囀るしかないのです。 (低い声になって)『アンリエッタよ、俺を愛していると言ってみろ』 (弱くか細い声で)『あ、愛しています、アルブレヒト陛下……』 (低い声になって)『なぁに~~? 聞こえんな~~ぁ!!』 (弱くか細い声で)『貴方を愛しています!! 一生どこへでもついていきます!!』 ……あおぅっ、なんという恥辱! もう死んでしまいたい!」 「なんとおいたわしい……!」 両手で顔を覆いわっと泣き出すアンリエッタにルイズは抱きついてうっすらと涙を浮かべる。 「お前等いい加減に現実に戻って来いやーっ!?」 ぽかんとしたままのエリスの脇で、柊の悲痛な叫びが響き渡った。 前ページ次ページルイズと夜闇の魔法使い
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封印された大魔法使い 聖 白蓮 No.3300 封印された大魔法使い 聖 白蓮 キャラクターカード 属性:人間 妖怪 魔法使い 命蓮寺 体力22 回避2 決死判定(3) [戦闘フェイズ]呪力3 フェイズ終了時まで、相手のリーダーは「回避-1」を得る。 (フェイズにつき1回まで使用可能) イラスト:空木あんぐ 考察 相手のリーダーの回避を下げる効果を持つ。 咲夜リーダーと違ってスペルが強化出来ない状態でも強化出来るが、呪力3消費ではどのみち燃費が良いとは言えない。 感情の摩天楼が配置されていると相手のリーダーの回避がほぼ下がるため、不要となる事もしばしば。 回避2としては最低クラスの数値。 スペルの素の打点効率も良いとは言えず、コンセプトである能力値固定なしに殴り合いを挑むのは無謀である。 特に同じ回避2相手ではまず殴り負けてしまうだろう。
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アドヴァーサリー アンラマンユの別名。
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魔法使いの少女 【名前】アリエッタ 【略称/あだ名】根暗ッタ 【性別】女 【年齢】16 【体格】身長148cm、体重42kg 【職業】魔法使い及び魔物使い 【口癖】「………」 【好きなもの】魔物、動物、自然、大空 【嫌いなもの】殺人者、虫、暗闇 【性格】弱気で根暗。そしておっちょこちょい。でもやるときはやる。 【必殺技】 「Evil Light(イービルライト)」(属性 光) 光の旋風で周囲を攻撃し、締めに周囲へ貫通する光線を放つ秘奥義。 【服装】 魔法使い専用の服を着ているが、スパッツのうえからガーターベルトを着けている等、以外にオシャレ(?)。 【備考】 別の世界から来た異世界人で、魔法使い及び魔物使いである。小さい頃に両親が殺され、一人になっていたところを魔物に拾われ育てられた。それが原因なのか、魔物と会話ができるようになった。彼女の小柄な体格は、満足な栄養を摂れず、十分な教育を受けられずに育ったため。何故、こちらの世界に来たのかは不明である。現在、「高校生」に拾われ家に住み込み中・・・。 (CV 雪野五月) 【使用武器】 弓 自由自在に出したり消したりできる弓。 【使用武器(近接)】 肉切り包丁 こちらの世界にきてから手に入れた物。 よく切れる。 【ステータス】 学力 ■■■■■□ 頭はいい 魅力 ■■■■■□ 可愛い 勇気 ■■□□□□ 常に弱気 体力 ■■■■□□すこし高い 攻撃 ■■■■■□ 高い 防御 ■■■□□□ 普通 魔力 ■■■■■□ 結構いいのが使える
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雪降る学校町 昨年のようにカオスには幸いなっていない、その夜空を、一頭の蝶が飛んでいた どう考えても、季節外れである しかし、その蝶は漆黒と言う色の関係もあってか、飛んで居る事を誰にも確認される事なく、ひらひら、ひらひらと飛んでいた …と ひらり、その蝶は何かを見つけた それは、サンタクロースの格好をした老人が、人間の少年達と話している、姿 (………) その会話や、後から来た少年達とのやり取りを見ていた、その蝶は 何か面白い事でも思いついたように羽ばたき、っふ、と唐突に姿を消した 闇夜を走る、一台のソリ ソリを引くのは、白い獏 ソリには、その獏…理夢の契約者である黄昏 裂邪や、裂邪の契約都市伝説であるミナワの姿などがあった サンタクロースに代わり、プレゼントを配っていた裂邪達 ……が 「-----っ!?」 「御主人様?どうなさいました?」 ぞく、と 急に、悪寒を感じた裂邪 辺りを見回す 「いや、何か、急に嫌な予感が」 「嫌な予感?」 気のせいなら、いいのだが… 警戒を強める裂邪 その、裂邪の視界に それは、入り込んできた 「っ!なんだ、ありゃ」 「何でぃ、トナカイが走ってるなら、まだわかるんだが…」 理夢やウィルも、それに気付く 雪降る夜空を飛んでいる、それ …トナカイがそりを引いているなら、わかる だが、それはトナカイではない ………ユニコーンだ 額から角を生やした一角獣 それが、夜空を飛んでいて…その、背中に 誰か、座っている その姿に………裂邪は、見覚えがあった 「っあん時の、魔法使い!?」 魔法使い 「災厄の魔法」カラミティ・ルーン …裂邪は、K-No.0が討伐されたあの事件に、関わった そして……その時に、カラミティの姿を、見た その行動を、発言を、見たのだ 子供のように残酷で、残虐で、しかし、気まぐれで……そして、酷く子供っぽい 邪悪なのか、そうではなのか、判断に迷うそれ そのカラミティが……ユニコーンの背に乗り、夜空を飛んでいたのだ ……カラミティも、裂邪に気付いたようだ にやりと笑い、裂邪に近づいてくる 「ご、御主人様…」 「…大丈夫。何かあったら。俺が護るから」 近づいてくるカラミティを警戒する裂邪 ユニコーンは、裂邪達よりもやや高い位置で止まり、カラミティが裂邪達を見下ろしてくる 「いよぉ、ハッピー・クリスマァス!楽しんでるかぁ?餓鬼んちょ共」 「お前にゃ関係ないだろ…何か用か?」 いざとなれば、いつでも攻撃できるよう…逃亡できるよう、準備を整えておく にやにやと見下ろしてくる、カラミティ どうにも、嫌な予感しか、しない 「うん?用って程でもねぇよ、ただ、楽しそうな事をやってると思ってなぁ?親切じゃねぇか、サンタクロースの手伝いをしてやるなんてよぉ」 「…っ見てたのか」 「あぁ、俺様は万能だからな。どこにでもいてどこにもいない。いつだってどこだって、見て居る事ができるんだぜぇ?」 ユニコーンの背中に横向き座り、足を組むカラミティ その姿だけ見れば、神秘的な魔法使いに見えなくもない やや、態度は尊大だが 「その様子を見ていて、俺様感動してな。俺様も、お前達に習ってみようかと思ったんだ」 「…ドウイウ事ダ?」 警戒しているシェイドの言葉に カラミティは大げさに杖を振りながら、答える 「どう言う事って、決まってんだろ?俺様も、この町の住人にプレゼントを贈ってやろうと思ってなぁ。こうやって、夜の街を飛んでる訳さぁ!トナカイがいないからこいつで我慢してるけどな!!」 「……酷い…俺っち悪魔なのに……トナカイじゃないのに……トナカイがいないからって、「背中に乗れるサイズだからいいや」って理由で召喚されて…………っしかも、プレゼントくばる為とか、どうして悪魔なのに人間の為に動かなきゃ」 しくしくしく ……あ、ユニコーン泣いてる どうやら、悪魔だったらしい 「うっせーぞ、アムドゥシアス。教会の十字架に貼り付けにされてぇか?」 「みぎゃあ!?やめてお願い教会の十字架とかマジ悪魔の弱点なの、やめてっ!!??」 「なら、俺様の言う事にしたがってりゃいいんだ」 「…悪魔だ……悪魔がいる……」 めそめそ泣いているユニコーン…アムドゥシアス 悪魔に悪魔とか呼ばれるとか、どれだけ外道なのだろう、この魔法使いは 「…っつか、プレゼントって、何を贈る気だよ?俺達みたく、サンタクロースのプレゼント配りを手伝うって訳でもないだろ?」 「あぁ、俺様は魔法使いだからな、魔法で、素敵なプレゼントを贈ってやるぜぇ?」 にやにや笑っているカラミティ つ……と、杖を、上へと向けた 「星をプレゼントしてやる」 「……星?」 「そうさ!魔法で星を降らせてやるのさ。この街全体に!素敵でロマンチックな魔法だろぉ?」 星 雪が降っていながら雲はあまりなく、星空が輝いて見える …この星を降らせる、と? 「そう言う訳だから、邪魔してくるなよ、餓鬼んちょ。流石に、町全体に星を降らせるとなると集中が居るんでな………ほら、アムドゥシアス!ベストポジションまで飛んでいけ、超特急で!!」 「いやああああああああああ助けてカイン司祭ぃいいいいい!!!」 悲鳴をあげながらも、カラミティが怖いのだろう アムドゥシアスは夜空を駆け、あっという間に裂邪達から離れていく 追いかける間すらなく…残されたのは、沈黙 「ど、どうしましょう、御主人様?」 「いや、星を降らせる、って……どう言う事だ?」 「流星群を作り出す、ってんなら、ロマンチックですがねぇ」 「まぁ、それなら害はないよなぁ」 …そう 流星群を降らせる「だけ」なら害はない だが 「…流星群ヲ街ノ上ニ降ラセテ………町中に隕石ヲ落トス、ト言ウオチデナケレバイイノダガ」 ぼそ、と シェイドが口にした、想定しうる限りで最悪の想定に ぴし……と、思わず一同は固まったのだった to be … ? 前ページ次ページ連載 - 我が願いに踊れ贄共
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解説 魔法を使う者の総称。 魔法と魔術を区別して考えない場合、魔術師と同義で扱われる。 関連 魔法 魔術 コメント
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アニバーサリーワンピース オレンジ○ アニバーサリーワンピース ブルー○ シルクハット ピンク○ シルクハットブルー○ シルクハット ブラック○ プレゼントの山○ 上質虫捕り網 グリーン☆ 上質虫捕り網 ブラウン☆ 夏休みドリル 漢字○ 夏休みドリル 算数○ 情熱の赤薔薇○ 持ち歩きひまわり イエロー○ 持ち歩きひまわり ブラック○ 涼しげ麦わら帽子 ホワイト☆ 涼しげ麦わら帽子 ブラック☆ 肩掛け虫かご ピンク☆ 肩掛け虫かご グリーン☆ 魅惑の白薔薇 ホワイト○
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【9日目 午前】_ヴァルハラ_ダウンタウン ,.-ー-、 / \ , ' \ /, _,.へ、_ ,.ヘ、 ´7 ゝ、 _,.r⌒i´ 〈ヘ ,'-'"く__ィ__,.-=ニ=ニ=-=`ヽ、 「ヘハ、_ / _,.イノ´ ', `'、_ | Vレ/ レヘ ,!ィ,.ィ´ γ ハ i ハ-_ i ハ> .| |l/イ/// ,.' .イノ / ハ_ニ、.ハノ,ィ'ハi イ i ,ゝ | l/ /// よう、よくきてくれたな 、 i イレ/イト ´ i ` ヒノ' i ハノ ! |l/Y// 助かるぜ `ヽ) .(、ハ.,,'ー' ___ "从ハノ 'r、_イ ノ Yヽ、 (´ ノ ,.イ ハi_ゝ くハ」 〈 i / ',ヘ i`=rー=ニ´Y)ヽイ // )ハ γ `(ヽヘ、_,.〉} {〉、_,.//、 ´〈,ヘハ、_,.、_ノ i〉、____つ(ノ さっそくだけど、お願いするんだぜ / ,.イk 、_,,...-='iヽ、 /7´ ,〈 J´ Yi´ 'イ '., / i ー' Y !' _ゝ, ゝ)、 _/ `ー-= ´ イン `ーr=ゝ、____ハ、__,.イ'´ ヽ__/´ `ー /⌒'´ ` 二゙'ヘ /! ̄ ̄/ ̄`¨¨´ ̄`丶、〉 / r '7 ´ { _/ 、\ 、 r'升ヘ \\ _/ ! ,.イ ̄「 ト 、 \X´,r=ァ、\\\\ jイ | ,L=-ヘ \ ド'沁り '! ド、\\\ ま、『2、3ターンくらい耐えてほしい』ぜ{ヘ1 '.´ ヘ'ィチ㍉ `゙' "" ! ! ilト、 \\'. ー!i '. {{ 弋ソ ′ /| i/ ̄`丶、 ヘ '.ヘ \>="- ー ´ /,/ / \ '.ヘ ≧ニー-zr- ' 7 /¨¨´ jノヘ/ r=≠=}L /' ! / ,/ j ! _,. / ノ /! /`ー- そしたら、後は私のメギドラでどうにかするぜ _,./ ノ 'ーr- 、7 ノ 7 i1 / { / |1ヘ'、/ ヘ 、 !i _,.∠ 入_,/ L!_ノ__ト、 ヘ ゝ、!, '´ ヴァルハラエリアに住む普通の魔法使い。AAは霧雨魔理沙。初登場は3スレ目の 884。 ゆっくり魔理沙としては一応、物語開始前の解説役として1の代役をつとめたりもしている。 その後登場した道下 正樹のセリフから察するに、どうも頂かれてしまったらしき可能性がある。 ところがどっこい生きていた。どうやって生き延びたのやら -- 1 (2011-07-11 18 00 48) 名前 コメント
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前ページ次ページルイズと夜闇の魔法使い 魔法学院から馬でたっぷり三時間、王都トリスタニアに辿り着いた柊とルイズがまず向かったのは王城直近にある仕立屋だった。 何でも着の身着のままでハルケギニアに召喚されたエリスのために服を用意していたらしい。 ルイズにそう説明されて柊はそう言えば前の虚無の曜日になにやら人が来てエリスの採寸やらをしていたのを思い出した。 ちなみに柊の分はない。 もっとも彼が身に纏っているコート――『スターイーグル』はこう見えてファー・ジ・アースの魔法技術を使ったれっきとした魔道具であるので換えは利かないし、 身なりにこだわるという訳でもないので特に不満はなかった。 とはいえせめて肌着くらいは欲しいので頼んでみたところ、あっさりと了承された。 そして店員からうやうやしく運ばれてきた荷物を見て……柊は眉を潜めてしまった。 文字通りで山のように衣装箱が積まれているのだ。 アニメや漫画ではよく見る描写だが実物を見るのは初めてだった。 その荷物の山を見て満足そうに頷くと、ルイズはそれを放置して店を出ようとした。 「どうすんだよ、これ」 と尋ねてみると、彼女はさも当然のように柊に言った。 「あんたが持つのよ。ゲボクなんだから当たり前でしょ?」 ※ ※ ※ 「……便利なのね、月衣って」 王都で一番大きいブルドンネ街を歩きながら、ルイズは嘆息交じりにそんな言葉を漏らした。 「まあな」 彼女の隣を歩きながら答える柊は荷物を何一つ持っていない。 仕立屋で出された荷物は片っ端から月衣の中に収納してあるのだ。 ウィザードが纏う簡易結界である《月衣》の収納能力は物の重量こそ無視できないものの、その大きさは一切問わない。 要するにそのウィザードが持ち得るのならそれこそスペースシャトル並みの大きさがあったとしても構わず収納できてしまうのだ。 幸い箱の数は多かったが重さ自体はさほどでもなかった(何しろ服一着に箱一つだ)ので総て月衣に収納しても少々の余裕はあった。 「エリスも月衣が使えなくなった時、不便だって言ってたしな」 言いながら柊は町並みをきょろきょろと見回した。 似たようなファンタジー世界のラース=フェリアで少しばかり過ごしていた事があるので、別段トリスタニアの町並みが珍しい訳ではない。 だが初めて来た場所を観察して見たくなるのは仕方のないことだろう。 「エリスが月衣を使えなくなった……って、あの子もウィザードなの?」 「元、な。色々あって今はもうウィザードの力をなくしてる」 柊の言葉にルイズは僅かに顔を傾けた。 そして彼女は探るように柊を見上げると、ほんの少しだけ声色を翳らせて言った。 「……あの子も、あんたみたいに凄い力を持ってたの?」 「別に俺は凄かねえけど……」 言って柊はルイズから眼を逸らして、空を見上げた。 表情を読めずに怪訝な顔をするルイズをよそに、柊は僅かな沈黙の後、答える。 「あいつは普通のウィザードだったよ。特別なんか何もねえ、俺達と同じ普通の奴だ」 二人がうらぶれた通りにある武器屋に入ると、来客に気付いた店主の面倒くさそうな視線が出迎えた。 しかし店主はルイズの姿を見て取ると途端に慌てて駆け寄り、恭しく頭を下げた。 「貴族のお嬢様。うちは真っ当な商売をしてまさぁ。お上に目をつけられるようなことなんざ、これっぽっちもありませんや」 「客よ。剣を見せてちょうだい」 「剣? お嬢様がお使いになられるので?」 「使うのはあいつ」 ルイズは店内に飾られている剣を物色している柊を指差すと、彼に向かって声をかけた。 「剣を使うんなら目利きくらいできるんでしょ? どれがいいの?」 「あ? あー……」 言われて柊は思わず渋い顔をしてしまった。 何しろウィザードに覚醒してからこっち、継承した魔剣一本で戦い続けてきたのだ。 剣を見る眼などないも同然だった。 「いや、実はよくわかんねえんだけど……」 「なにそれ……あんた剣士じゃないの?」 「自分、剣士じゃなくて魔剣使いっすから……」 照れ臭そうに頭をかく柊にルイズは嘆息すると、店主に向き直って投げやりに口を開いた。 「……あいつが使えそうなのを見繕ってやって」 「へえ、お任せを!」 言われて店主は顔を輝かせ、意気揚々と店の奥へ引っ込んで行った。 ややあって店主は大振りの剣を手に戻ってくる。 ルイズはそれを見て思わず感嘆の息を吐いた。 白銀に輝く刃や様々に宝飾が施されたその大剣は見るからに店内にある武器とは一線を画しており、貴族たるルイズからすれば気に召すのも当然だろう。 「この店一番の業物、ゲルマニアのシュペー卿が鍛えし名剣でさ。お嬢様のお付きならこれぐらいは下げていただかねえと」 「まあそうね。ゲルマニアってのがちょっと気に入らないけど……でも、よくこんなものがあったわね」 「へえ、最近『土くれ』のフーケとかいう盗賊が城下を騒がしてるそうで。そいつが貴族様方のお宝を好んで頂くってんで、下僕に剣を持たせるのが流行ってるようでさ」 「ふぅん……」 お愛想全開な調子の声を聞きながらルイズは大剣をまじまじと観察し、次いで柊に眼をやった。 「これでいいんじゃない?」 「剣ならなんでもいいんだけど……これ、高いんじゃねえか?」 「そりゃもう。何しろこれほどの剣はこのトリスタニアでも片手ほどもありやせんし」 店主の言葉に柊は渋面を作ったが、一方でルイズは平然としていた。むしろ希少価値があることでより気に入ったようだ。 ルイズは満足そうに頷くと、勝気に腕を組んで口を開いた。 「で、いくらなの?」 「へえ、エキューで三千……と言いたい所でやすが、お嬢様になら特別に二千で結構でさ。新金貨なら三千でやすな」 「!?」 もったいぶった店主の言葉にルイズが固まった。 明らかに尋常ではない彼女の様子に柊は恐る恐る尋ねてみる。 「……エキューで二千って、高いのか?」 ここでようやく柊は自分がこの世界の貨幣価値について何も知らなかった事に気付いた。 何しろ召喚されてからこっちずっと学院の中で過ごしていたため、金銭が必要になる場面が全くなかったのだ。 先程の仕立屋でも金銭回りについてはルイズが勝手に取り仕切っていたのでそこに触れる機会はなかった。 柊の問いにルイズは肩を小さく震わせながら、答える。 「……庭付きの屋敷が買えるわ」 「ぶぅっ!?」 予想の斜め上を行き過ぎた答えに思わず柊が噴き出した。 しかし言い出した当の店主はさも当然とばかりに一つ頷いてしたり顔で語る。 「名剣は新城に匹敵しやすぜ。屋敷ですむなら安いもんでさ」 この値段は流石にルイズも予想外だったらしく、渋面を作って口の中で何事かを呟き考え込んでいる。 「お、おい……ルイズ?」 明らかに法外な値段に思えるのに何故か考え込んでいるルイズを見て、柊は不安になっておずおずと声をかけた。 それが契機になったのだろうか、彼女は小さく頷くと顔を上げ、店主に向かって言った。 「それでいいわ」 「へぇ、毎度ッ!!」「おいーっ!?」 店主の喜び勇んだ声と柊の悲鳴が重なった。 決断を下して満足気になっているルイズに柊は詰め寄り、泡を食って口を開く。 「お、お前っ! そんな大金あるのかよっ!?」 「そういえば手持ちはなかったわ。小切手でいいわよね?」 「勿論でさ! 少々お待ちを!」 「違ぇ! そういう意味じゃねえよ!」 いそいそとカウンターに引っ込んでいく店主をわき目に柊は慌ててルイズの肩を掴んで振り向かせた。 「家買えるような金をなんで持ってんだよ! さっき値段聞いて固まってたじゃねえか!」 「たかが剣一本がそんな値段ってのに驚いただけよ。額自体は出せないほどじゃないし」 「おかしいおかしい……! お前なんか金銭感覚が……って、あ!?」 ルイズの肩を揺らす柊が唐突に小さく呻き、顔色を変えた。 そして月衣から衣装箱を一つ取り出して彼女の前に突きつける。 何もない場所から唐突に現れた箱に店主が眼を剥いたが、そんな事を気にする余裕は今の柊にはなかった。 「こ、これ……これ! エリスの服! これはいくらなんだ!? あと俺が買ってもらった奴も!」 「うるさいわね……最低限のものでいいってエリスがしつこく言うから、全部合わせても千エキューは超えてないわよ。あんたのはどうでもいいから……三着で百くらい?」 「……」 二千エキューで庭付き一戸建てが買えるのなら、大体一エキューで一万円は下らないだろう。 エリスの服が総額約一千万円。肌着三着で約百万円也。 柊は目の前が暗くなった。 どうやらエリスは貨幣価値などについて知っていたようだが、根本的に『貴族』であるルイズの金銭感覚を読み誤っていたらしい。 柊は自分達とルイズの間に『格差』という巨大な二文字が横たわっているような錯覚を感じた。 「お嬢様、小切手はこちらで」 「ええ」 「! ま、待て! 待てぇっ!?」 いそいそと小切手を差し出す店主の動きで柊は我に返り、声を上げた。 煩わしそうにねめつけてくるルイズと邪魔臭そうに睨みつける店主の前で、柊は身振りも加えて必死に叫んだ。 「そんな高っけえのいらねえって!!」 無論剣を手に命懸けで闘ってきた柊としては剣の性能が良いに越したことはなく、性能に見合うならば多少値段が張っても気にすることはない。 実際彼の纏っている『スターイーグル』やファー・ジ・アースで手にする予定であった新しい魔剣の改造費用もそれなりに高額だ。 そしてそれらの費用は総て柊が自腹で賄っている。 これは卒業した後で気付いた事なのだが、ふと思い立って自分の預金を調べてみたところ驚くべきことにこれまで一年間引き回されていた分の依頼の報酬がちゃんと支払われていたのである。 普段好き勝手に柊をいじくり回すアンゼロットではあったが、こういう点に関してはきっちりとこなしてくるので彼としてはぐうの音も出せないのであった。 ともかく。 自分の使う得物である以上柊はなるべくなら自分の手に収まる範囲で済ませたいのである。 場合によっては援助を受けることもやぶさかではないが、現状世界の存亡だのと言った問題とは無縁なこのハルケギニアにおいてそこまでしてもらう道理はなかった。 しかし言われたルイズの方からすればそうでもなかったようで、彼女は苛立たしげに腕を組んでから柊を睨みつける。 「アンタはわたしの護衛でしょ! だったらそれに見合うだけのものを身に着けるのが当然なの! みすぼらしい剣なんか帯びさせてたらラ・ヴァリエールの沽券に関わるわ!」 「……ヴァリエール?」 そこで声を上げたのは柊ではなく、脇に控えていた店主だった。 小切手を持っていた手を僅かに震わせて、ルイズの顔を窺うようにしておそるおそる口を開く。 「ヴァリエールって……"あの"ヴァリエール?」 「……トリステインにヴァリエールは一つしかないはずだけど?」 口を挟まれて苛立ちが増したのか、不機嫌さをあらわにしてルイズは店主に言う。 すると彼は表情を固まらせたまま顔色だけが青くなった。 ヴァリエール家といえばトリステインでは間違いなく五指の内に入るほどの名家中の名家なのだ。 王室からの覚えもよく、トリスタニアで生活するのならまず間違いなく耳にする家名である。 そんな名家の人間がこんな場末の武器屋に顔を出すなど笑い話にもならないのだが、片田舎ならばともかくトリスタニアで貴族を騙るにはヴァリエールの名は巨大すぎる。 (するってえと……本物?) 店主は戦慄した。 ヴァリエール家の人間に剣を高値でふっかけ、買わせかけたのだ。 もしも後に事が露呈すれば、店の存続どころか命の存続すらも危ぶまれる。 少なくともそうできるだけの力が、ヴァリエール家にはあった。 「大体剣なんて振って斬れりゃあそれでいいんだよ! 宝石とかなんとかそんなみてくれなんて必要ねえだろ!?」 「ゲルマニアの蛮人みたいな事言うんじゃないわよ! トリステインには格調というものがあるの! わたしがいいって言ってるんだからこれにしなさい!」 なりふり構わず訴える柊を一蹴するようにしてルイズは吐き捨てると、店主の手から小切手をもぎ取ろうと手を伸ばした。 今の店主から見れば死刑執行書にも等しい小切手を奪われそうになって、店主は慌てて小切手を背中に隠し呻く。 「お、お嬢様……お嬢様っ!」 「なによ。お金ならちゃんとあるわ、見くびらないで」 「お嬢様の言う事ももっともでさ! しかし……しかし、剣には使い手との相性ってもんがありやす! 実際剣を振るのはそちらの旦那ですから、旦那の望む剣にしておいた方がよろしいかと!」 「……あんたさっき名剣は新城に匹敵するって言ってなかった?」 「た、確かに言いやしたが……使い手との相性が合わねえといかな名剣、新城とてハリボテ同然でやす! ほらよく言うでしょう、『一流の使い手は武器を選ばない』と!」 「そ、その通りだ! 良い事言うな親父!」 「あたぼうよ、伊達に武器屋はやってねえぜ!?」 思惑は別として利害が一致した柊と店主が結託して頷きあった。 ルイズはその様子を険の入った表情でしばし見つめた後……はあと諦めたように溜息をついた。 「……わかったわよ。それなりの剣の腕だってのは知ってるし……」 渋々と言った体で吐き出したルイズの言葉を聞いて、柊と店主は心の中で違う意図のガッツポーズを決めた。 「それじゃどれがいいのよ。好きなの選びなさい」 「お、おう。それじゃとりあえず……親父、一番安いのは?」 「えっ? あ……安いってのならそっちの樽に突っ込まれてるのが投げ売りものでさ」 柊に言われて、最悪は回避したが実入りも消し飛んだことに気付いた店主が沈んだ調子で店の端にある樽を指差した。 柊に同調した手前彼の言を無下にすることはできなかったが、それでも店主は抵抗を試みる。 「けど、そっちにあんのは中古だったり傷物だったりでガラクタ同然の奴ですぜ。せめて新品の方が……」 「いい。これ以上びた一文使いたくねえ」 「ちょっとあんた、わたしにガラクタを買わせるつもりなの!?」 「問題ねえ。親父も言ってたろ、一流の使い手は武器を選ばねえってな」 普段ならそこまで自信過剰に言い切ることなどないが、今だけはとりあえず乗っておく。 確認を怠った自分のせいとはいえルイズに高額の負債を背負ってしまった身としては、もはや剣の体裁さえ保っていれば何でもよかったのである。 検分を始めて見ると、大方は店主の言ったとおりガラクタ同然の代物ばかりだった。 どれもこれも錆が浮き上がっていたり曲がっていたりのこぎりのように刃が欠けていたり、およそ使えそうな得物はない。 一縷の望みをかけて鞘に入った剣を抜いて見るが、それらもやはり中身の剣身は同じようなものばかりだった。 それでも棚に飾ってある新品の剣は見るのが(正確にはその値段を見るのが)怖いので柊は樽の中古品の検分を続けていく。 そして何本目かの鞘つきの剣を手に取ると、不意に店主が小さく声を上げた。 「あ、それは……」 店主の反応が少し気になったが、柊は構わず剣を鞘から抜いた。 すると唐突に低い男の怒号が店内に響き渡った。 『コラァ、いつまでほったらかしにしてやがんだ!』 「うおっ!?」 柊は驚いて周囲を見回したが、店内には三人の他に誰もいない。 柊と同じように驚いているルイズの横で、店主が頭を抱えて天井を仰いだ。 柊は再び剣に視線を戻し、眉を潜めた。 「……もしかしてコイツか?」 『おうよ、他に誰がいるってんだ』 「インテリジェンス・アイテム……でいいんだっけ?」 ファー・ジ・アースでも通っている名称でルイズに尋ねてみると、彼女は店主に視線を向けた。 「へえ、お察しの通りインテリジェンス・ソードでさ。あんまりにも口が悪いんで黙らしてたんでやすが……そんな所に紛れてやがったのか」 『ふざけんじゃねえよ! 俺様をこんなくず鉄共と一緒にしやがって!』 うんざりといった口調で店主が漏らすと、剣は怒気も露に叫んだ。 ルイズも不快そうに眉を顰めて剣を見やり、そして柊も少し呆れたようにため息をついた。 「お前も錆びてんじゃねえか……」 見れば確かにこの剣も他の武器と同様に錆が浮いていた。 薄手の両手剣で使い勝手としては以前使っていた魔剣に近しい。 作り自体もしっかりしていたが……いかんせん錆があってはその性能は推して知るべしといったところだろう。 要するに購入する剣としては考慮外の代物だ。 「今度から大人しくしとけよ。じゃあな」 『待て待て! 出逢いはもっと大切にしようぜ!?』 鞘にしまおうとした柊に剣が慌てて口を挟んだ。 『俺を発掘してくれたよしみだ、悪いようにはしねえぜ?』 この手のタイプは非常に面倒くさそうな事になりそうなので柊は思い切り眉を顰めてしまった。 ルイズも剣を見ながら小さく「……うざっ」と呟いた。 二人の反応をよそに剣は自分を手にしている柊を値踏みするように沈黙すると、 『……ふぅん。おめえ、幸薄そうな顔つきのワリに結構やるみてえだね』 「やかましい。……わかるのか?」 『まあな。俺様は特別だかんね』 「特別ねえ……」 うさんくさげに柊は剣を見やったが、剣の方はそんな事を気にもせずに言葉を続けた。 『……まあいいか。おめえに使われてる方がこのまま埋もれてるよりはマシだろ。てめ、俺を買え』 「いや要らねえ」 『即答!?』 愕然と声を上げた剣に柊は生暖かい視線を向けたまま口を開く。 「いくらなんでも錆びた剣はないわ。それに俺、喋る魔剣とか人化する魔剣とかあんま好きじゃねえんだよ。……データ的にそんな強くなる訳じゃねえし」 『メタな事言うんじゃねえよ!?』 わめく剣にいい加減嫌気が差したのか、脇からルイズがヒイラギに向かって口を挟む。 「……ちょっとヒイラギ。もうそんなのほっといてさっさと選びなさいよ」 「あいよ」 答えて柊は剣を鞘に戻そうとすると、完全に鞘に収まる直前、剣がくぐもった笑い声を上げた。 『フッ……みてくれだけで選ぶたあ、おめえも所詮二流の使い手だね。そこのお飾り好きな娘っ子と変わんねえや』 「……あん?」 先程のやり取りはともかくとして、柊自身は自分を一流だとは思っていない。 だが、他人にそう言われるとやはり気に障るものだ。 それはルイズも同じだったようで、彼女は肩を怒らせて剣に一歩詰め寄った。 「なによ。じゃああんたはみてくれだけじゃないっての?」 『俺は特別だって言ったじゃねえか』 再び引き抜かれた剣は偉そうにそんな事を言うと、胸を張るように僅かに身体を揺らせて言った。 『耳をかっぽじって良く聞きやがれ。この俺、デルフリンガー様はな――――六千年前から生きてる由緒正しき魔剣なんだぜ!?』 前半と後半でわざわざためを作って芝居がかった風に剣……デルフリンガーが叫ぶと、店内が静まり返った。 「その妄言は初めて聞いたな。大きく出やがって」 店主は肩を竦めて失笑した。 「六千年って始祖ブリミルの時代? あんた、外見だけじゃなくて中身まで錆びてたの?」 ルイズは大いに眉を潜め、怒りを通り越して呆れを含んだ声でそう言った。 そして柊は、 「ふーん。で?」 驚くでもなく呆れるでもなく、デルフリンガーを見つめたままそんな事を言った。 『あれ、なんだその反応?』 「いや、だからどこが特別なんだよ」 『そりゃ俺が六千年前から……』 「……それくらいなら普通だろ?」 『「普通っ!?」』 ルイズとデルフリンガーが声を揃えて叫ぶ。 柊はおもむろに頷き、遠い眼をしながらしみじみと語った。 「俺が前持ってた魔剣だってミッドガルドで二万年ばかり過ごしてるし。知り合いの持ってるヒルコっつー剣は何千万年前だかに生まれたらしいし。 聞いた話だと四十五億五千万年前から継承されてる剣ってのもあるな」 「よ、よんじゅう……なんですって?」 「四十五億五千万年。まあ俺の世界の話だけどな」 「……」『……』 臆面もなく言い切る柊をまじまじと見やった後、ルイズは頭痛を堪えるようにこめかみに手を当てて唸った。 「あんた……そういう事いうから胡散臭いのよ!」 「本当の事だからしょうがねえだろ……」 柊は嘆息交じりに答えた後、改めて『普通』のデルフリンガーを見やった。 彼(?)は柊の台詞を聞いた後黙り込んだまま、カタカタと身体を震わせていた。 二人が反応を待つことしばし。 デルフリンガーは裏返った叫び声を吐き出した。 『うるっせえ!! 無駄に年月重ねてりゃ凄ぇって訳じゃねえんだよ!!』 「キレた!?」 「というか言いだしっぺのお前が言うな!?」 『いいの! 俺はいいの!! なんたって俺にはそこらの魔剣なんか眼じゃねえ凄い能力があるんだからよ!!』 「能力?」 そこでようやく柊が食いついた。 確かに錆付きの剣というだけなら論外だが、何がしかの能力があるというなら話は別である。 しかしデルフリンガーの方はといえば、何故か再び黙り込んでしまった。 そして彼は厳かな声で力強く言い放つ。 『……長い事使ってねえんで忘れちまったが、凄い能力があったような気がする!』 「意味ねえ!?」 『意味あるよ、超あるよ! 今は使えねえけど、思い出したら使えるようになんだろぉ!? ほらアレだ、敵の放った系統魔法を吸収したり! 吸収した魔法の分だけ使い手の身体を動かしたり! そういう事ができるようになるかもしんねえぜ!?』 「ほー。じゃあその内あらゆる空間と結界を斬り裂く能力とか、神の如き因果や運命を持つモノを斬り裂く能力とかが生えてきたりすんのか」 『場合によってはそうなるかもわからんね!』 「……別のにすっか」 「そうね」 『あ、待て。いや、待って下さい』 ついに下手に出始めたデルフリンガーを見かねたのか、それまで三者のやりとりを微妙な視線で見守っていた店主が話を切り出した。 「……旦那。デル公も何やら執心のようですし、何かの縁と思って買ってくれやせんか。お安くしときますんで」 「えー? 嫌よこんな胡散臭い剣!」 「錆び付きだけど能力持ちの剣か……」 ルイズはあからさまに嫌そうな顔をして声を上げる。 だが柊は(不明ではあるが)能力的なメリットに一考の価値はあると判断したのか店主に向き直り、尋ねた。 「……ちなみに、いくらくらいで売ってくれんだ?」 「厄介払いも込みで新金貨百でどうでやしょう」 「それでも百もすんのかよ……」 「これぐれえの剣の相場が二百でやすし、デル公はこんなでもれっきとしたインテリジェンスソード……魔法が付加された一品でやすから。錆がなけりゃあこの百倍は下りやせんぜ」 「マジか……」 いまいち相場が理解できない柊は小さく唸って考え込んでしまう。 するとデルフリンガーが声を上げた。 『なんだ、文句あんのか? だったらタダでいい、俺を連れてけ!』 「!? て、てめえデル公、何言ってやがんだ!」 泡を食って叫ぶ店主に、しかしデルフリンガーは逆に噛み付くような勢いで言葉を続けた。 『コイツは俺をこけにしやがった。断固許せん! 男にはな、どんなに安くても引けねえ戦いって奴があるんだよ……!』 「耐久消費財の分際で生意気な事言ってんじゃねえぞ!」 『うるせえ、俺はもう決めたんだよ! 四の五のほざくようなら娘っ子に言っちまうぞ!』 「あぁ!?」「?」 店主は肩眉を吊り上げ、そして唐突に話を振られたルイズは訝しげに首を傾げた。 そしてデルフリンガーは声を落とし、呟くようにしてぼそぼそと喋り始めた。 『鞘に収まったら喋れねえけど、会話は聞こえてんだからな。おめえがそこの娘っ子に何ちゃら卿とかいうののナマクラを――』 「うわあぁあああっ! 待て待て待て待てぇーー!!」 店全体を揺らすような店主の叫び声が響き渡った。 ※ ※ ※ 『まーそんな訳でよろしくな、相棒』 武器屋を後にして開口一番、デルフリンガーが心なし喜色を称えて言った。 路地裏を歩く二人の表情は優れない。どちらかというとうんざりと言った表現が正しいだろう。 溜息をつく柊はもちろんのこと、ルイズの方がより落胆が大きいようだった。 「なんでそんな胡散臭い剣なんか……」 ルイズはこれ見よがしに何度目かになる溜息を吐き出す。 柊もルイズと同じように気を吐きながら答えた。 「しょうがねえだろ。親父に泣きつかれちゃさあ」 武器屋でのやり取りの後、何故か店主は態度を翻してデルフリンガーをもらってくれと頼まれた。 柊はデルフリンガーと店主の会話の端からなんとなくその理由を把握したがルイズは聞き取れなかったようで、なおシュペー卿の剣を選ぼうとしたのだ。 するとデルフリンガーがせっついて店主がしつこく頼み込む。 仕方ないので柊がデルフリンガーを選ぶことで落ち着いた。 ちなみに、流石にタダでもらうのは気が引けたので、半額の新金貨五十で買うことにした(そしてルイズはそれを渋った)。 「まあアンタがどうしてもっていうから折れてあげたけど……なんで鞘を貰わなかったのよ」 ルイズは柊の手に握られているデルフリンガーをジト眼で睨みつけながら呟いた。 デルフリンガーは鞘に収めていれば喋る事ができなくなるそうで買った時に一緒についてくるはずだったのだが、柊がそれを断ったのである。 それをデルフリンガーが喜んだのは言うまでもなく、そのおかげか彼は上機嫌なのであった。 「だって俺、鞘は使わねえんだよ……」 『うんうん、中々いい心がけだぜ相棒! おかげで俺の好感度がぐぐっと上がったね、だいたい一万八千ぐらい!』 「小豆相場より上下が激しいじゃねえか。どこの対戦型ギャルゲーだよ」 嘆息しながら柊は返し、そして軽くデルフリンガーを構えて正面から睨みすえた。 「……お前、これで実は能力がねえとか言ったらへし折って捨てるからな」 『安心しな、ちゃんと折り紙つきの能力を持ってるぜ。だが……今はまだ使う時じゃねえんだ』 「……」「……」 柊とルイズは黙り込んでデルフリンガーを見つめた。 『その眼……疑惑をやめぬ瞳……』 明らかに胡散臭げな視線を放つ二人にデルフリンガーが呻く。 『ならば! 体裁を取り繕う必要はないな……退屈のために変えていたこの姿でいる必要も……ない!!』 「はあ?」 「お前何言っ……うお!?」 柊が訝しげに眉を潜めたとたん、手にしていたデルフリンガーが唐突に光を放った。 慌てて周囲を見回して人がいないことを確認すると、柊は改めて驚愕の視線をデルフリンガーに向ける。 デルフリンガーから放たれる光は刀身全体を包み込み、やがて―― 『そうだ!! これが俺様の真の姿――インテリジェンスソード・デルフリンガー! 設定年齢六千歳、蟹座のB型!!』 「「し……新品だっ!!」」 錆び一つない、白銀に輝く刀身が露になった。 「ってか、蟹座とか血液型とかあんのかよ! ハルケギニアにはよぉ!!」 『よくわかんねえが相棒に握られてたら勝手に思い浮かんだ。ふしぎふしぎ』 「こいつ……」 理不尽さに眉をしかめながらも、柊はとりあえず姿を変えたデルフリンガーをまじまじと見やった。 見れば確かに、武器屋にあった時には至る所にあった錆がどこにも見当たらない。 作り自体は元よりしっかりできていたので、新品同然となった今ではシュペー卿とやらの剣と比べても全く遜色はないだろう。 だが―― 『はーははは! どうよ、相棒に言われて必死に思い出したんだぜ! 他にも何かあったような気がするけどおいおい思い出すだろ……見直したか!?』 それを補って余りあるほどにやかましい。 得意絶頂になっているデルフリンガーに眉を顰めながらルイズは柊を睨んだ。 「ねえ、本っ気でうるさいんだけど。今からでもいいから鞘貰ってきなさいよ」 「だから鞘は使わねえんだって……」 「だったらこのまま喋らせとく気? 学院から追い出されるわよ?」 「いや、こうすれば多分大丈夫」 言いながら柊は軽く腕を上げると、手にしていたデルフリンガーを月衣へと収納した。 『お? おおお?? おおおぉぉっ!?』 奇声を上げながらデルフリンガーの姿が掠れ、虚空の中に消えていく。 その存在が完全に消失すると、歩いていた裏通りに静寂が戻った。 「まあ、こんな感じだから月衣から出すたびに鞘から抜くと二度手間になっちまうんだよ。鞘にも能力があるってんなら別だけど」 「……なるほどね」 とりあえず頷いてはみたものの、ルイズとしては少しだけ納得がいっていなかった。 確かに月衣の中に入れている間は静かになるだろうが、取り出す度にさっきみたいに喚かれるのではないのだろうか。 それを聞こうとして彼女は口を開きかけ、ふとある事に気付いた。 別に大した事ではないが、ちょっとだけ興味がわいたのだ。 「ちょっと聞いていい?」 「なんだ?」 「月衣の中って、どうなってんの?」 「俺にもわかんねえ。基本的に生物は入れられねえし、どうなってるかなんて――」 答えながら柊はルイズの質問の意図に気付いてはっとした。 そしておもむろに月衣からデルフリンガーを取り出す。 『……うおお、なんだ今の不思議空間は!?』 出てくるなり悲鳴を上げたデルフリンガーに二人は興味津々と言った表情で詰め寄った。 「なあ、デルフ。月衣の中ってどうなってんだ?」 『お? おお、そりゃああれだ、なんていうかこう……凄くて……凄くて……凄かった!!』 「貧弱な語彙の感想だなぁおい……」 「所詮は剣って事ね……」 落胆も露な二人をよそに、デルフリンガーは柊に向かって叫んだ。 『おい相棒、なんだよ今のは!? あんな所に入れられるなんて聞いてねえぞ!?』 「そりゃ言ってないもんなぁ」 『ひ、酷い……騙したのね! ワタシのカラダだけが目当てだったの!?』 「まあ実際問題、お前の剣身(カラダ)にしか用はないわな」 『あなたはケダモノよォー!!』 芝居がかった微妙な裏声でデルフリンガーが叫んだ。 いい加減相手をするのがイラついてきた柊が口を開きかけたが、それより先に酷く冷め切ったルイズの声が響く。 「……いいこと思いついた」 「ル、ルイズさん?」 『ど、どうした娘っ子』 思わずかしこまってしまった二人を他所に、とうに怒りを通り越えたルイズはデルフリンガーを見据えながら言った。 「さっき武器屋で、コイツは錆がなければ百倍以上って言ってたわよね。コイツを売って新しいのを買いましょう」 「それだ!?」 『ノーモア転売!?』 眼から鱗が落ちたように相槌を打つ柊と、泡を食って悲鳴を上げるデルフリンガー。 『ま、待て! 待ってくれよ!』 「待たない。さっきの武器屋で売るのは流石にアレだから……そうね、せっかく王都に来たんだしアカデミーに行きましょう。 インテリジェンスソードなら研究素材にもなるしそれなりで引き取って貰えるだろうから」 『なんだよぅ、久しぶりに喋れるようになったからちょっと羽目を外しただけじゃねえかよう!』 「……わたしは黙れって言ってるのよ」 『すみません。以後自重します』 デルフリンガーはまるで怯えるようにカタカタと剣身を揺らして恭しく答えた。 黙り込んだデルフリンガーを見てルイズは鼻を鳴らし、肩を怒らせたまま歩き出した。 十分に距離を取ったのを見計らって、デルフリンガーが柊に小さく囁いた。 『あの娘っ子こえー。マジこえー……』 「あんま怒らせんじゃねえよ……一応世話になってんだからよ……」 『俺は相棒に使われるけど、相棒は娘っ子に使われてんのな。ゲボク同士仲良くやろうぜ』 「ゲボクじゃねえ!?」 「ヒイラギ、何やっての! 行くわよ!」 怒気を孕んだルイズの叫び声が響き、柊は慌ててデルフリンガーを月衣に納めると歩き出した。 と、不意に足を止めて振り向く。 お世辞にも衛生的とはいえない路地裏の通りには柊達以外には誰もいない。 ――少なくとも見える範囲には、人はいなかった。 「……まあいいか」 柊はそう呟くと、既に表通りの方へと消えたルイズを追って走り出した。 前ページ次ページルイズと夜闇の魔法使い